2010年 Vol.32 "夏 号"

目 次

  1. 学内講師就任の挨拶(平岡智之)
  2. 眼周囲の形成外科的疾患(杏林大学形成外科 多久嶋亮彦教授)
  3. 第114回日本眼科学会総会で受賞
  4. 眼窩外来の活動(今野公士)
  5. 平成22年度外来表
  6. 杏林アイセンターのVisitors
  7. 新入局者の紹介
  8. イベント情報
  9. 編集部からのコメント
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学内講師就任の挨拶

平岡智之

本年度より学内講師を拝命しました、平岡智之と申します。網膜硝子体班に所属し、病棟医長を担当しております。

私は平成5年に杏林大を卒業し同年当教室に入局しました。2年間の院内研修の後、海谷忠良先生率いる聖隷浜松病院へ出張しました。院内研修時代は連日遅くまで病棟に残って仕事をしていたのですが、浜松では0時過ぎは当たり前、早朝までオペ室にいることもしばしばで、肉体的にも精神的にも十二分な鍛錬を行うことができました。平成9年に帰室、当時助教授であった樋田先生率いる網膜硝子体班に加えて頂き、連日の緊急手術に追われる日々を過ごしました。その後、関連病院の医長を2年間勤めて帰室し網膜硝子体班として本格的に活動させて頂くようになりました。1999年に新しい外来棟に移転するのと同時に眼科外来はアイセンターを標榜し、外来手術室と病棟を同一フロアーに配置する現在のシステムとなりました。各スタッフの協力もあり手術件数は飛躍的に増加していきました。網膜班が最も苦労する網膜剥離(年間約400件)の緊急手術ですが、定時手術(通常午前2件、午後2件)の後に1件は受け入れて頂いています。これにより、オペ室があくのを深夜まで待つことも激減し、スタッフには感謝感謝の毎日です。実際、昨年度の網膜硝子体班の手術件数は約1100件でしたが、そのうち45%は緊急手術でした。外傷や眼内炎などの手術依頼も多く、慌ただしく働きながらあっという間に10年が経ってしまいました。

ここ数年は徐々に後輩が増え、指導的立場に立つ事が増えてきました。教えることの難しさに悩みながら、術者としての技量だけでなく指導者としての力量が問われる毎日を過ごしています。樋田先生から学んだ事をひとつでも多く後輩に伝えていけるよう、アイセンターの一員としてこれまで以上に精進したいと思います。どうぞ宜しくお願い申し上げます。

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眼周囲の形成外科的疾患

杏林大学形成外科 多久嶋亮彦教授

形成外科とは組織を移動(移植)することにより、先天的、あるいは後天的な変形を修復する分野です。中でも、眼瞼の再建はわれわれ形成外科医にとって一番困難な分野の一つと言っても良いでしょう。それは開・閉瞼という機能を再建するだけではなく、美容的にも優れた眼瞼を再建する必要があるためです。具体的な対象疾患としては、眼瞼下垂(先天性、加齢性)、腫瘍切除後の再建、外傷(眼科底骨折など)、義眼床形成、など多岐にわたり、さらにこれに重瞼術、上眼瞼のたるみ取り、下眼瞼のbaggy eyelid修正、などの美容外科的手術が含まれます。

眼瞼下垂

先天性の眼瞼下垂はしばしば経験するところですが、近年、特に多く見られる疾患が加齢性の眼瞼下垂です。これには眼瞼挙筋腱膜が伸展することによって生じる腱膜性眼瞼下垂と、眉毛下垂や上眼瞼の皮膚が弛緩することにより生じるものがあります。前者に対しては、挙筋短縮術を行うことにより、開瞼が楽に行えるようになります。(図1)また、後者に対しては、美容学的に、眉毛上、あるいは下の皮膚切除、または重瞼線に沿った皮膚切除を行うことにより、睫毛に被った皮膚を除去し、美しい重瞼ラインを再現します。

図1a 左上眼瞼マイボーム腺癌の拡大切除後の欠損

図1b 下眼瞼よりの皮弁による再建術後1年

悪性腫瘍

老人社会を迎え、マイボーム腺癌などの悪性腫瘍もしばしば見られるようになりました。腫瘍の部位、大きさによって再建方法は異なりますが、機能的、整容的にかなり優れた結果を得られるようになってきています。(図2)腫瘍によっては頚部のリンパ節廓清を必要とすることもあり、当科の腫瘍グループが担当しています。

図2a 腱膜性眼瞼下垂術前

図2b 術後2ヶ月

外 傷

眼窩底骨折は、以前は眼球運動障害が手術適応とされていましたが、上顎洞への組織脱出が多く、浮腫が軽減した後、眼球陥凹が予想されるような症例に対しても、脱出した組織の還納を行うなどの手術的処置が行われています。陳旧性の眼球陥凹は治療が困難であり、美容的再建が望まれる昨今、外傷後、早期の治療が望ましい疾患です。

顔面神経麻痺

当教室は顔面神経麻痺の治療を専門としておりますが、麻痺による兎眼症状が強い場合は側頭筋を利用した閉瞼機能の獲得を行います。下眼瞼の外反が見られる場合は、耳介軟骨移植などを行うこともあります。また、麻痺から回復して閉眼機能が得られるようになっても、軽度の麻痺による重瞼線の消失を訴える患者もおり、この場合は重瞼術を行います。

この他にも、義眼床形成を行うことや、眼窩内腫瘍に対して眼科、脳神経外科、と協力して摘出術を行うこともわれわれが担当しています。あらゆる疾患をわれわれは取り扱っておりますが、これらの患者さんは、まず、眼科の先生方を受診される方がほとんどです。もし、眼瞼下垂や眼瞼に生じた腫瘍など、上記したような患者さんがおられましたら、どうぞ、当科の外来へご紹介下さい。また、メールでの問い合わせでも結構です。

外 来:月曜日、水曜日

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第114回日本眼科学会総会で受賞

慶野博講師は今年の4月、名古屋で開かれた第114回日本眼科学会総会で学術奨励賞を受賞し、「Therapeutic effect of the potent IL-12/IL-23 inhibitor STA-5326 in experimental autoimmune uveoretinitis」という題名で記念講演をされました。この学術奨励賞は40歳未満の眼科研究者で優秀な論文を発表している基準にて、毎年、全国から4~5名が選ばれます。

同日本眼科学会総会で、渡辺交世先生が第63回日本臨床眼科学会学術展示優秀賞を受賞し、「結核性眼疾患の診断におけるQuantiFERON○RTB-2Gの有用性の評価」という題名で記念講演をされました。

また、今回の総会で山本亜希子先生と伊東裕一先生がポスターの座長賞を受賞しました。皆様、おめでとうございます。

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眼窩外来の活動

今野公士

はじめに

杏林アイセンターの眼窩外来は前任の忍足医師が発足させてから、8年余りが過ぎました。発足2年余りにて忍足医師が開業され、その後6年は今野が一人で担当させていただくことになり現在に至ります。しかし、私も途中で非常勤医として担当することとなってしまい、一時期は隔週の外来開催となりご迷惑をおかけしましたが、今年度からまた毎週活動的に外来が開けるようになりました。眼窩疾患は、一般眼科医、各専門医がどことなく避けてしまう、ちょっと苦手意識の強く感じられる分野です。しかしそれゆえに、近隣の先生方からご紹介させていただくことも多い分野でもあります。今回は、先生方からご紹介いただいた疾患の中でもポピュラーな症例を簡単にご紹介したいと思います。

眼瞼疾患

ご紹介して頂く疾患中、No.1はやはり眼瞼下垂症や内反症です。当科では主に皮膚弛緩を伴う中・高年の下垂は主に挙筋前転法、内反症はJones法を施行しています。しかし、先天性眼瞼下垂症、難治性の下垂症、そして美容目的の下垂症等は前述された多久嶋教授の形成外科にお願いしています。

また眼瞼腫瘍もご紹介多く、脂漏性角化症、乳頭腫、母斑などのopen surgery可能な良性疾患は当外来で切除、生検します。しかし、脂腺癌など悪性腫瘍が生検で判明した際、広範囲摘出および眼瞼形成術が必要になる症例は形成外科に依頼しております。

さらに眼瞼痙攣、片側顔面痙攣に対してはMRIを施行した後、ボトックス注入を行っております。

涙道疾患(図1)

こちらも近隣の先生方からのご紹介率が高い疾患です。当科では涙道内視鏡を用いてNS-Tを挿入しております。基本は両眼同日に施行します。図1のように涙道内が強いfibrosisを認める症例は、やはりチューブ抜去後も再閉塞することがしばし見られるため、こうした症例にはDCRを考慮します。しかし、近年の傾向として患者様自身が皮膚を傷つけてまで手術を希望されない方が増えてきており、DCR適応例は減少傾向にあると感じます。他には、涙嚢炎の切開排膿および抗生剤加療なども多くしております。また最近ではBCC typeの涙嚢腫瘍摘出なども施行しました。

図1 涙道内視鏡下での骨性涙道所見
左:ほぼ正常な涙道 右:慢性涙嚢炎における涙道内のfibrosis所見

眼窩内疾患

最近多い疾患は涙腺炎です。涙腺炎は以前ミクリッツ症候群と呈されていましたが、100年前の診断からようやく近年IgG4 associate diseaseと新たな概念も登場してきました(図2)。

図2 涙腺炎患者のMRI所見
両側の涙腺が腫大している。
上段:強調水平断 下段:強調冠状断

この疾患は最近来院が多く、今後の研究課題のひとつです。他には外眼筋炎、甲状腺眼症などによるステロイド加療、眼窩内腫瘍(おもにM.lymphomaや涙腺多形腺腫)などの加療をしております(図3)。

図3 涙腺多形腺腫を一塊にして除去したところ

外 傷(図4)

視束管骨折によるステロイド加療やBlow out fractureが主です。特にtrap door typeに対しては緊急手術の適応になるので迅速な対応が必要です。

上冠状断

下矢状断

図4 眼窩下壁骨折において下直筋がtrapされている(赤丸)

今後の展望

今後は眼窩内疾患の加療に力を入れていきたいと思いますが、この分野は眼科単独というわけには成り立ちません。形成外科、耳鼻科、脳外科など他科の連携はもちろんのこと、他大学病院、放射線医科研究所などの特殊機能機関との連携も重要になります。今後も精進して参りますのでご紹介のほどよろしくお願いいたします。

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平成22年度外来表

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杏林アイセンターのVisitors

Ki Cheol Chang 先生

韓国Jeon-Ju 市にあるCheon-buk National University Hospitalから網膜硝子体フェローのKi Cheol Chang 先生が今年1月25日から2週間アイセンターに滞在されました。Chang先生は角膜から網膜に専門を変更した経緯があり、一般外来と眼炎症外来の見学の他に前眼部から後眼部手術まで多くの手術を見学され、その他にも日本食、箱根観光や日光観光などエンジョイされました。

In Kyung Oh 先生

今年3月の4週間にIn Kyung Oh先生が訪問しました。Oh先生も韓国(ソウル)の出身で、Korea Universityの医学部を2000年に卒業後、網膜疾患、特にぶどう膜炎や加齢黄斑変性黄斑のようなmedical retinaに興味を持ちました。去年の春、岡田先生の外来を見学する予定でしたが、急病で実現できませんでした。しかし、今年、再challengeして来日し、勉強熱心でアイセンターで充実した日々を過ごしました。

米川能弘 氏

Yoshihiro Yonekawa米川能弘君はCornell Universityの医学部を今年の5月に卒業した眼科を目指している若手医者です。今年の4月、まだ学生の間に3週間ほどアイセンターで岡田先生の外来を中心に見学しました。Yonekawa米川君はアメリカ生まれ育ちの日本・米国dual国籍を持っている完全バイリンガルで、アイセンターの皆さまとすぐに仲良くしました。それに以前、眼科の研究に携われ、7つの論文を業績に持っていて、2~3年目の眼科研修医レベルの知識を既に持っていたような印象でした。今後の活躍を期待しています。

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新入局者の紹介

利井東昇

東京生まれ、日本と台湾育ちで、1997年、台北のChina Medical CollegeをM.D.で卒業されました。眼科職歴13年間もあり、既にオペを含めて臨床は何でもできる有力な先生です。今年4月から杏林アイセンターをVRフェローとしてジョインしていただきましたが、学ぶ側とともに教える側として是非活躍していただきたいと思います。

柴田朋宏

4月からVRフェロー
2004年東京慈恵会医科大学卒業
同大学初期研修および眼科レジデンシー

中山京子

4月から眼科レジデント
2008年杏林大学卒業、杏林で初期研修

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イベント情報

OPEN CONFERENCE

開催場所:杏林大学病院 外来棟 10F 第2会議室
開催日時:2010年7月14日(水) 19:30
  藤田京子 先生(駿河台日本大学病院 眼科 助手)
  「黄斑変性症のロービジョンケア」(仮題)

第53回東京多摩地区眼科集談会

開催日時:2010年10月2日(土) 14:00-16:30
開催場所:杏林大学大学院講堂
会  費:1,000円
特別講演:栗本康夫 先生(神戸市立医療センター中央市民病院 眼科 部長)
     「原発閉塞隅角緑内障治療のアップデート」(仮題)

※ 日本眼科学会認定専門医2単位

第12回西東京眼科フォーラム

開催日時:2010年10月20日(土) 19:00
開催場所:吉祥寺第一ホテル8F 飛鳥の間
会  費:1,000円
特別講演:気賀澤一輝 先生(杏林大学 非常勤講師)
     「眼科診療に役立つカウンセリング・精神療法の基礎知識」

※ 日本眼科学会生涯教育認定事業2単位 申請予定

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編集部からのコメント

樋田先生の愛弟子の平岡智之先生が講師に就任されました。樋田先生の教えを後輩に伝承する機会が増え、さらに活躍されると思います。また、今野公士医師がふたたび眼窩疾患に本腰をいれます。この分野は他科との協力や病診連携が非常に重要な部門であり、忍足先生の創設した精神が発展することが期待されます。またアイセンターに素晴らしい新人も入りました。患者さんのご紹介などよろしくお願いします。(AH)

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