2009年 Vol.30 "秋 号"

目 次

  1. アイセンターでの眼科教育(田中伸茂)
  2. 学生と初期研修医への眼科教育(田中伸茂)
  3. 杏林アイセンターにおける後期研修医制度の現状(慶野 博)
  4. 研修卒業後の教育(三木大二郎)
  5. アイセンターレジデントの声(中山真紀子)
  6. 新入局者の紹介
  7. イベント情報
  8. 編集部からのコメント

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アイセンターでの眼科教育

田中伸茂

杏林アイセンターは、ひとりでも多くの若い力を社会に輩出して、地域の眼科医療に貢献できるように日々努力しています。若い力とは、患者を敬いそして患者を教科書として学び、真摯に医学の発展を追求する若い一般眼科医です。地域社会から得られた信頼は、アイセンターの更なる発展に不可欠なものでしょう。今回、目標達成のためにアイセンターで行われている眼科教育を紹介させていただきます。

眼科教育は医学部4年に講義形式で始まります。その後、5年で全員が対象のbed side learning(BSL)、6年で希望者のみが対象のクリニカル・クラークシップ(クリクラ)と参加型実習が続きます。初期研修医(卒後1、2年)は選択科目として眼科研修に参加し、後期研修医(卒後3から5年)は駆け出しの眼科医として眼科診療に携わります。一人前の眼科医になるには、その後も勉強が必要でしょう。そのような彼らにとって、当アイセンターが目指す充実した専門外来の確立は、多くの疾患をより深く経験するのにすばらしい環境といえると思います。このように眼科教育は長期に亘るため、段階に応じたきめ細かい対応が求められます。我々は、教育を提供する側と受ける側の意見を真摯に受け止めTry and errorを繰り返しつつ、より良いものを追求しています。

学生と初期研修医への眼科教育

田中伸茂

医学部4年の眼科講義は、井上准教授が統括して各担当者が分担しています。系統だった構成になるよう工夫し、学生に興味を持たせて眼科の知識を吸収してもらいます。医学部5年のBSL、6年のクリクラ、そして初期研修をそれぞれ別の責任者が担当していたため、教育責任の所在が不明確になりがちでした。そこで、平成20年度より、今流行の中高一貫教育のように継ぎ目のない眼科教育を提供するべく医学部5年から初期研修2年までの未入局者を対象とした教育責任者を置くことになり、現在まで私が担当しております。この場をおかりして教育係の使命と日常をお伝えできれば幸いです。

BSL

医学部4年から眼科講義がありますが、眼科の魅力を伝えるのに一対一で対話する以上のことはないと思います。BSLでは医学部5年のひとグループ4人が一週間かけて眼科研修を受けます。初日に各人に担当症例とグループにひとつ英語文献を割り当て、一日一ページの穴埋め式レポートを配布します。その日のうちに、担当症例のアナムネをとり、カルテをみて病態を理解してもらいます。その後、病棟担当医が行うムンテラに同席します。2日目は担当症例の手術を見学し、術後に執刀医と質疑応答してもらいます。3日目である術翌日の診察を病棟担当医と一緒にします。また、模擬眼を使って眼底検査をしたり(写真1、2)、お互いの眼を細隙灯顕微鏡で覗いてみたりして、実際の眼科機器に触れてもらいます。4日目は外来実習ですが、初診患者のアナムネも一例とってもらいます。最終日は、教授試問と英語論文の抄読会です。多数の教官がそれぞれの担当に携わることになります。できるだけ多くの眼科医・眼科スタッフと会話をしてもらうように、また患者さんと直接触れ合えるようにしています。こうすることで、眼科のBSLに対する熱心さを感じてもらえると確信します。学生全員約100名が研修するわけですから、各人にあった研修を提供することは困難ですが、よりよいBSLになるよう広く意見を求め改善していきます。BSLを経験して眼科に大いに興味を持った方にはウエットラボ等に定期的に勧誘して眼科に対する関心が薄れないよう工夫しています。これらの努力が実り、Best Teaching Department of the Yearとして大学より表彰されました(写真3)。

クリクラ

医学部6年の5月から6月にかけて臨床実習があります。各人がひと月ずつ2科を研修します。初期研修のように多岐にわたる選択科目から眼科を選ぶのとは異なり、2科目から眼科を選ぶわけですから、将来、眼科を志望する方が多いはずです。希望者を積極的に受け入れたいのですが、充実した研修を提供するには、ひと月4人までが限度ではないかと思っています。無責任に引き受け、負の印象を与えることは避けるべきではないでしょうか。といっても今までは限界を超えた希望者数に到達していません。医学部6年ですから、そろそろ国家試験に向けた準備も必要です。各人の希望を聞いて研修内容を調節することもありえます。実習内容は基本的に初期研修に準じたものとしていますが、眼底検査ができること、医局会で担当症例の報告ができることを最低限の目標にしています。

初期研修

幅広くプライマリーケアができるようにという理念で始まった現行の初期研修制度では、眼科志望ではない方も眼科研修が可能です。最長でも数ヶ月の眼科研修を受けるのみの初期研修医に責任が伴うことをさせることは不可能でしょう。ある意味ゆとり教育と同類のものを感じます。しかし、その時点で眼科志望のない人に、眼科の面白さを実感してもらい入局のきっかけを作ることは大切です。毎週、一症例を割り当て、術前後の診察を病棟担当医とともに行います。週一日、8診担当をして外来患者のアナムネをします。研修期間中、すべての専門外来に一度は参加してもらいます。白内障の手術では第一助手ができることを目標にしています。当直は、土日一回ずつと平日3回です。下当直の先生と行動を伴にして救急患者の診察補助に当たります。翌日は、規則に従い、午前勤務のみとしております。基本的には、上記のような研修を行っていますが、各人の意見をよく聞き、できる限り希望に沿うような研修になるよう心がけています。見学型研修より参加型研修をなるべく多く取り入れるように努力はしていますが、各人に意思にはかなりばらつきがあり、全ての方に満足してもらうことは至難の業です。各研修医にオーベンを付け、2週間単位でオーベンを変えることで研修内容に偏りがでないように工夫しています。

上記の他に学外行事として、医学部5年から初期研修2年までを対象にした医局説明会とそれに続く懇親会を毎月第2火曜日に開催しています。未入局者同士の縦のつながりを持つことで、お互いに情報交換し、交流を深めてもらいます。横のつながりも大切ですが、縦のつながりもそれに劣りません。教育責任者の責任は重大で、常に心配りが必要です。以上、学生と初期研修医への眼科教育を概説しました。医学部5年が眼科入局を決める4年後にならないと成果が見えない地道な仕事です。眼科入局後は医局員全員で責任を持って若い力の臨床教育に取り組んでいます。希望者には学位取得の指導もしております。更なる教室の発展には、何をおいても人材です。過去には、杏林アイセンターに入局する方の多くは杏林卒の方でしたが、2001年以降、杏林卒の入局が激減し、他大学卒の方の割合が増えております。それゆえ、他大学出身者が肩身の狭い思いをすることはほとんどないと思いますので、どのような背景の方も是非、進路の選択肢のひとつとして当アイセンターをお考えください。もちろん、前述のとおりの眼科教育を充実させることで杏林卒の方の入局者数が増えることも切に願っております。同門会の先生方の普段よりの甚大なるご助力、心より感謝しております。ご子息、ご親類で医師になられる方がいらっしゃいましたら是非、杏林アイセンターの良さをお伝えいただけましたらこの上ない喜びです。今後とも御指導の程、宜しくお願いします。

杏林アイセンターにおける後期研修医制度の現状

慶野 博

平成16年度より導入された新臨床研修制度は初期研修を卒後2年間、後期研修をその後の4年間の全6年間のプログラムから成り立っています。そのため、眼科への実質的な入局は卒後3年目からとなりました。それに伴い平成16、17年度は新入医局員はゼロ、その後平成18年度から21年度までの4年間に合計10人が入局しています。

成15年度以前は、卒後すぐに入局であったため初めの2年間は杏林アイセンター内で眼科初期研修を行い、3年目からは関連病院へ出張し、さらに研鑽を積むという流れで研修制度が成り立ってきました。しかし上記の制度変革と、それに伴う医局内の人員不足もあって平成18年度以降は入局後約3年間はアイセンター内で研修、4年目で初めて関連病院に出張、という形が定着してきました。

現在のアイセンターでは、入局後の4年間を眼科研修期間と位置づけており、5年目で眼科専門医を取得することが一つの大きな目標になっています。基本的には1年目で検査・診断・薬物療法・手術助手、2年目でレーザー治療・白内障手術・緊急疾患の治療、3年目、4年目でさらに高度な治療・手術を修得します。さらに眼科専門医試験の受験資格として、20件以上の眼内手術の執刀、1編以上の論文、2つ以上の学会発表が必要とされています。そこで3-4年の研修期間中に、この数以上の手術、論文、学会発表を行うことが必須となります。その他、毎週水曜日の医局カンファでの症例発表、海外論文の抄読会、白内障ウェットラボへの参加など研修医の先生方は毎日、大変忙しい日々を過ごしています。

また今年度からの新しい試みとして、入局してからアイセンター内で研修している期間に各研修医がどの程度まで研修目標を達成しているのかを判断するため、後期研修医ロードマップを作成中です。これをもとに各研修医と私が約半年に1度meetingを持ち、角結膜、白内障、緑内障、網膜・ぶどう膜、屈折矯正・弱視・斜視、神経眼科、眼付属器の各セクション毎に初期目標の達成状況についてお互いに確認するようにします。また、専門医取得後の進路についても話し合うことで研修終了後、スムーズに次のステップに移行できるよう努めていきたいと考えています。

研修卒業後の教育

三木大二郎

後期臨床研修の3年間を終了するといよいよ専門医試験となります。この項では専門医試験受験後の医局員の教育につきお話しさせていただきます。

専門医試験合格後は希望にもよりますが、各専門外来に所属してもらい各個人の専門性を身につけてもらうようにしています。現在、①角膜外来、②水晶体外来、③緑内障外来、④網膜硝子体外来、⑤黄斑外来、⑥眼炎症外来、⑦小児眼科・斜視弱視外来、⑧神経眼科外来、⑨眼窩外来の9つの専門外来が存在しています。専門外来ではチーフとサブチーフがフェローの教育を行い、専門外来の充実を図っています。私が網膜硝子体外来に所属している関係上、網膜硝子体外来の教育システムにつきお話しいたします。網膜硝子体外来のフェローは手術に関しては1年目ではおもに網膜剥離のバックル手術の習得、1年目後半から硝子体手術の習得を目指します。網膜剥離手術に関してはその術式の選択は、平形教授、井上准教授、三木が必ず術前に診察し指導しています。網膜剥離の緊急手術が多く、バックル手術は比較的早く独立できるようになります。硝子体手術も指導医の助手から入り、最初は単純硝子体切除から徐々に黄斑上膜や黄斑円孔などの黄斑部疾患、増殖糖尿病網膜症や網膜剥離などの硝子体手術へと進んでいきます。完全に独立するまでには最低2年は必要と考えます。また、フェロー1年目は、加齢黄斑変性などの黄斑疾患の知識を十分に身につける必要があり、岡田准教授の指導のもとPDTや抗VEGF療法など黄斑外来を担当しています。網膜硝子体外来には現在、東京医科歯科大学と順天堂大学から1名ずつ国内留学しています。

このようなフェロー制度は、網膜硝子体部以外でも設けており、眼炎症部では毎年ぶどう膜炎や強膜炎について、勉強を希望する外部の若手の先生が1~2名来ています。しかし、アイセンターの他の部門、例えば神経眼科外来や眼窩外来の場合、チーフは常勤医師ではなくフェロー希望者も少ないのが現実です。アイセンターの充実に向け、すべての専門外来に多数のフェロー希望者が出てくれることを願っています。

また、現在の各専門外来に所属しているフェローが将来は指導医、さらにはファカルティーとなり、また、新たなフェローを教育し、アイセンターが発展し続けることを期待したいと思います。

アイセンターレジデントの声

中山真紀子

後期研修医2年目になりました。ほぼ毎日のように網膜剥離などで緊急入院してくる患者さん達の対応に追われ、忙しい毎日ですが、指導熱心で面白い上級医の先生方に囲まれ、時には愚痴をこぼしたり、涙を流したりしながら働いています。丸一日の休みはほとんどなく、逃げ出したくなることもありますが、日曜日にも入院患者さんの診察をしていると、『先生、休みないの?』『先生、家に帰っているの?』と親のように気遣ってくださる患者さんもいたりして、患者さんから励まされることもあります。後期研修医の主な仕事は、病棟担当医としての病棟業務や手術の助手、外来での問診・諸検査です。手術のムンテラは患者さんに理解してもらえるよう常に心がけています。私は上級医の先生方が説明しているのをこっそり聞いて、色々なフレーズを組み合わせて説明していますが、それでも、難しいからお任せしますと言われてしまうこともあり、ムンテラの難しさをよく痛感します。手術の助手は今でも緊張します。初めは順番を間違えずにスムーズに機械を渡すことで頭がいっぱいでしたが、最近は、なぜその処置をしているのかを考えながら助手を務め、手術後に先生に確認することで、新しい知識を身につけることができるので少しずつではありますが日々成長している気がします。研修医というのは、どの先生方も通ってきた道であり、いつかこの努力が自信につながり、より多くの患者さんに貢献できる日が来ると信じています。今後とも御指導のほどよろしくお願い致します。

新入局者の紹介

伊東裕二

2009年7月より入局させて頂きました伊東裕二です。2001年に大分大学を卒業し、2003年に同大学院へ進学、卒業後は大分赤十字病院で勤務しておりました。研修医の頃より網膜硝子体に興味を持ち、念願の杏林大学でフェローとしてたくさんの症例を前に刺激的な毎日を送っています。症例数は多いですが、一つ一つの疾患と深く向き合いながら、諸先生方の知識や技術を吸収していけるよう頑張りたいと思います。宜しくお願い致します。

伊東真知子

2009年7月より夫と共にアイセンターで勤務させて頂いております。2004年に大分大学を卒業後、同眼科に勤務しておりました。杏林アイセンターのシステムと専門外来の充実に驚いたとともに、このような環境での勤務が叶ったことを大変幸運に思っております。

新しい知識や技術を吸収し、一日も早く戦力となれるよう努力していく所存です。夫婦共々宜しくお願い致します。

イベント情報

第11回 西東京眼科フォーラム

開催日時:2009年11月4日(水) 19:00〜21:00
開催場所:吉祥寺第一ホテル 8F「飛鳥の間」
会  費:1,000円
特別講演:高橋 浩 先生(日本医科大学 眼科 教授)
     「角膜:アップデート」
※ 日本眼科学会認定専門医 2単位

OPEN CONFERENCE

開始時間:18:30
開催場所:杏林大学病院 外来棟 10F 第2会議室

2009年11月18日(水)
 佐竹良之 先生(東京歯科大学市川総合病院 眼科 講師)
 「アレルギー性結膜疾患:その病態と治療戦略」

2010年2月3日(水)
 松本容子 先生(駿河台日本大学病院 眼科)
 「AMDのアップデート」(仮題)

2010年2月3日(水)
 塚原逸朗 先生(竹内眼科クリニック)
 「外来硝子体手術」

編集部からのコメント

教育は労力の割に報われないといわれていきましたが、大学でも教育プログラムに力を入れたり、その貢献度を評価する努力がなされつつあります。アイセンターでは、医学生と初期研修医には田中講師、レジデントには慶野講師が中心になって、教育プログラムを充実させてくれています。医師は生涯学習が必要ですが、特に若々しい先生方の成長に触れると刺激され日常の仕事の励みになります。人生においても「教えながら学ぶ」ことが大切であることを実感しています。(AH)

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