◆ 糖尿病網膜症外来(平形 明人)

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◆ DR外来の紹介(片平 宏)             

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◆ モハマド君

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◆ イベント情報

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◆ 編集部より

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糖尿病網膜症外来(DR-1, DR-2外来)
平形 明人

 

 杏林アイセンターに、増殖糖尿病網膜症の手術治療目的で紹介される多くの症例は、術前検査や紹介状から糖尿病コントロールが不良であり、高血圧、腎疾患、心血管疾患を合併したり、多種類の内服薬を併用しています。そのような症例で、依頼用紙を基本に糖尿病内科に依頼すると外来予約に時間がかかるばかりでなく、返信には腎臓内科や循環内科にも依頼くださいなどと書かれていることもあります。無治療の増殖網膜症の手術の緊急性を内科医に理解してもらいながら、患者本位の治療計画をたてるために、内科医に眼科所見をその場で説明できたらどんなにいいでしょうか。糖尿病管理が不良な状態では、凝固線溶系も異常となり、硝子体手術に不利になります。炎症性サイトカイン、血管新生を刺激するサイトカインも増悪します。感染の危険性も上がります。局所麻酔2時間くらいの手術ですと依頼用紙で連絡しても、手術の内容、術後の体位制限、患者のストレスなどなかなか伝えきれない状態を、内科医に知らせたいことは山ほどあります。患者も医者も大きな時間を消費し、この遅延が予後を不良にします。
 樋田・藤原両教授もこの事情を把握して、第3内科(糖尿病、消化器専門)主任教授に京都大学から石田均教授が赴任されると、さっそく相談を申し入れてくださり、石田―樋田の積極的な指導の下に、アイセンターで内科眼科同時診察の場が設けられました。眼科を平形、内科を片平講師が担当し、眼科専攻医の岡野芝子医師が外来診療を補助する形で、2000年から金曜日の午後にDR外来としていっしょに診察ができるようになりました。患者からは、ヒラカタ、カタヒラと覚えやすいともいわれました。2003年からは、内科を滝沢講師が担当するようになりました。また、糖尿病内科に入院している患者に対する糖尿病教室に、眼科からも医局員が交代で糖尿病の眼合併症の教育講義を行うようになりました。この立ち上げには斉藤博医師、高間直彦医師が努力してくれました。
 同じ場で同時に診察することは、患者教育のみならず医師教育のよい場にもなっています。眼底写真や眼底造影検査の結果の説明を通して、内科医も末梢血管障害の実態を目のあたりに把握し、糖尿病治療の重要性について患者に説明がしやすくなるばかりか、力が入ります。そのため、重篤な糖尿病網膜症の手術成績も、その後の糖尿病管理も比較的良好である結果が得られるようになりました。DR外来は、硝子体手術を受けた患者がどのように生活を維持、拡大しているかを深く実感できる外来です。若い先生方の積極的な参加を希望します。

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DR外来の紹介
片平 宏(第3内科)

 我が国では、猛烈な勢いで糖尿病患者が増加しております。2003年に発表された厚生労働省の調査結果は、糖尿病を強く疑われる人約760万人、糖尿病の可能性を否定できない人を合わせると約1620万人であり、前回の調査と比べても大幅に増加しております。糖尿病患者において必要なことは長年の高血糖の結果である細小血管障害や動脈硬化性疾患などの合併症をいかに予防していくかです。糖尿病腎症から透析にいたる患者は年間1万人をこえ、糖尿病性網膜症から失明にいたる患者も3000人を越えるとされております。これらの合併症により、日々の生活を脅かされるのをいかに予防し、発症してしまった際にはその合併症をいかに進展させずに通常の生活を送れるようにすることが重要と考えております。
 杏林大学医学部附属病院では、眼科治療を必要とする糖尿病コントロール不良例に対し、内科医と眼科医が同時に診察できる特殊外来を開設しております。内科医は当院第三内科の糖尿病・内分泌外来担当医がアイセンター内において、眼科医とともに診察を行っております。この外来は、早急に眼科的な治療を要する糖尿病患者に対し眼科と内科の綿密な連携することより、治療時期を逃さないために非常に重要と考えております。
 当外来で経験した症例の特徴や治療成績と当外来の意義について、本年5月東京で開催された、第47回日本糖尿病学会学術大会総会で発表しましたのでご紹介します。
 対象は、1999年9月から、2003年3月に、眼科外来を受診し早急に眼科治療を要し、かつ内科入院加療を必要ととした64例です。1型糖尿病は1例で他は2型糖尿病でありました。受診する契機となった眼科疾患は、糖尿病網膜症が48例(硝子体手術前42例、光凝固療法前6例)、白内障が9例、外眼筋マヒが3例、網膜剥離、網膜円孔、原田病、視束管骨折がそれぞれ1例でした。(硝子体手術を必要としたのは42例66眼、汎網膜光凝固を必要としたのは9例13眼) 全64例中、糖尿病網膜症は、56例(88%)が有しており(単純型4例、前増殖型2例、増殖型50例)、8例は網膜症がありませんでした(図1)。
(図1)

他の糖尿病合併症としては、腎症を有するものは43例 (67%)で、2期13例、3A期13例、3B期5例、4期12例と病期の進行しているものが多く、神経障害を有するものも55例 (86%)と高率であり、すでに複数の合併症を有しておりました。さらに、生活習慣病の合併も高血圧31例 (48%)、高脂血症34例 (53%)、高尿酸血症11例 (17%)と高率に合併しておりました。
 初診時のHbA1cは5.2〜15.2%で平均9.8%と高値を示していました。受診時、驚くべきことは未治療例が34%(22例)もあり、この多くは過去に糖尿病と診断されており、その後放置していたことで合併症が進行したものと考えます(図2)。
(図2)
近医通院中のものが36例(56%)で、経口糖尿病治療薬の使用例が多くみられましたが、HbA1cの高値なものも多く合併症の発症を予防できなかったと思われます。入院後は、早急な眼科手術を要する症例が多いことより、インスリン療法例が68%と主な治療手段とされました。血糖改善後、硝子体手術を施行した66眼のうち、88%で視力を改善あるいは維持できました(図3)。
(図3)
血糖のコントロール状況は、眼科治療時にはHbA1cが7%になり 、その6ヶ月後、1年後と経過中7%前後と比較的良好なコントロール状態を維持しております(図4)。
(図4)
眼症状を主訴として来院したため、その改善と予防に対する血糖コントロールの重要性が十二分に理解され、良好な血糖の維持につながっているものと思います。
 当外来運営のメリットは、手術前後の病態を内科と眼科の医師が相互に理解した上で、患者の面前においてどちらの治療を優先させるかも含めた方針を決定でき、それぞれの医師が専門的な立場から詳細な病状と今後の治療方針を同時に説明することを可能にし、患者の治療に対するコンプライアンスの向上に非常に有用でありました。眼科外来と内科外来を同時に受診することができることから、お互いのやりとりによる頻回の受診を省略でき、なおかつ必要な症例においてはその場で入院日を決定することができ、よりスムーズな眼科治療を行うことができるようになりました。以上のことから、眼合併症を有する糖尿病患者にとって非常に有効な外来と考え、ここに紹介いたしました。
 当外来で驚かされたのは、糖尿病未治療例がことのほか多くみられたこと。また、外来通院中の方でも、食事療法を管理栄養士からきちんとうけている方が非常に少ないということです。血糖値と合併症との関係も漠然とは知っているものの、具体的な目標値が知り得ていなかったことも多く、糖尿病教育の必要性も痛感させられました(図5,6)。

(図5)
(図6)

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モハマド君

 イラクでの戦闘により左眼を負傷し治療のため来日したイラク少年モハマド・ハイサム・サレハ君(10歳)が6月5日、聖隷沼津病院で樋田教授の手術を受けた。瞳孔領にあった厚い膜とその周囲の硝子体を硝子体カッターにより切除し、眼底に損傷がないことが確認された。角膜下方に大きな三つ又の切創がありナイロン糸で縫合されていたが、これが眼痛および高度乱視の原因であった。全抜糸し、30分で手術終了となった。プライマリー手術の段階で無水晶体眼になっていたが、今回はIOL挿入せず経過観察とした。しかし、今後再手術の可能性も考えられるとのこと。沼津ロータリークラブの活動により高額な義援金が集まったので、モハマド君は次の手術のためにも来日するかしら。。。?                      〈A.A.O.〉

 

イベント情報

〈OPEN CONFERENCE〉
国内外の先生にインフォーマルな場で臨床、研究テーマについて講演していただくシリーズです。
外来棟の10階第2会議室で6:30PMから行われます。アイセンター外の先生方も是非ご参加ください。

11月24日 (水)   「アトピー性皮膚炎および類似する眼瞼疾患」
           早川 和人先生 (杏林大学医学部皮膚科助教授)

12月1日 (水)    「眼科観点からみた耳鼻科の疾患」
           甲能 直幸先生 (杏林大学医学部耳鼻咽喉科教授)

〈第6回西東京眼科フォーラム〉(専門医認定事業、2単位)
10月2日(土) 15:30~17:45
           場所:杏林大学医学部・臨床講堂 
           教育講演:「眼科医のためのインターネット講座」
           前田 利根先生(オリンピア眼科病院院長)

〈第42回東京多摩地区眼科集談会〉(専門医認定事業、2単位)
10月30日〔土)14:00~17:00
           場所:杏林大学医学部・臨床講堂
           特別講演:「角膜移植のトレンド」
           天野 史郎先生 (東京大学眼科助教授)

編集部より

 糖尿病網膜症はレーザー光凝固の普及で重症例が非常に減ったと言われています。しかし全身的にも眼科的にも全く未治療の増殖網膜症患者さんが時々訪れます。手術はうまくいったと思ってもルベオーシスや強膜創部に生じた新生血管からの出血に悩まされることもまだまだ多い状況です。当院の糖尿病内科の先生方の協力には本当に助かっています。糖尿病に対してはチームでの連携医療が非常に大切です。(H.T.)

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