◆杏林アイセンターのフェロー(平形 明人)        -------- <1>
◆インタビュー (河原・杉本・鵜殿)     ------------------ <2>
◆Dr.Glenn Jaffeの来日講演         -------------------- <4>
◆アイセンターイベント情報     --------------------------- <4>
◆編集部より            --------------------------- <4>

杏林アイセンターのフェロー   平形 明人

 杏林アイセンターが始動して2年になりますが、病棟も先月完成したばかりで、ハード面もソフト面もまだまだ未熟です。そのなかでフェローという立場もまだ確立していませんが、樋田教授が杏林大学に赴任されて以来、慶応義塾をはじめとして他大学から網膜硝子体手術を研修したいというすでに基礎研修をすまされた先生が来られるようになり、subspecialtyを重点的に研修する医師に対して、米国のシステムにまねてフェローと呼ぶようになりました。今後、この立場をもっと明確にして、充実されたシステムにした方がよいと考えています。
 フェローの仕事は、スタッフの下で自分の選択した専門分野の患者の診断、治療を円滑に実行し、その分野の最先端のことを身につけるために、研究、学会や論文活動に精を出すことです。つまり彼らの活動が研修医やスタッフを刺激し、教室の雰囲気作りや業績に大きく影響するのです。このフェローこそ杏林アイセンターの最も大きな働き手であり柱ともいえます。だからフェローとして他大学から来られた先生は見学者や訪問者ではなくて、最も杏林アイセンターの顔になることを自覚していただきたい。だからこそ、難しい患者さんたちを担当できるのです。研修医も他所から急に来た先生に自分の経験を奪われると妬まずに、むしろフェローから多くのことを学ぼうとするでしょう。
 学び成長するためには色々な環境があると思いますが、小生の研修や留学経験を振り返りますと最も大きな助けになったことは、切磋琢磨する仲間とともに過ごせたことです。研修時代は、まるで砂漠に水をまくように何でも新しい経験なので、本人の意識があれば患者さんから多くのことが学べました。しかし、専門が深くなるとどうしても討論したり相談できる仲間が必要です。この「仲間」がフェローといっていいでしょう。
 網膜硝子体部門で高名なMichael Trese臨床教授が3月の糖尿病眼学会(樋田教授が会長)で来日されますが、先生がMachemer先生のDuke大学のclinical fellowを受験された際のエピソードを紹介します。当時Machemer先生のfellowになることは大変競争率が高く、全米から硝子体術者を目指す優秀な眼科医が受験し3名だけが合格した時代です。口頭試問の際に、Machemer先生が豆をお箸で皿に移すことをやらせました。そこで、Trese先生が豆をお箸で掴むと、豆ははじけてMachemer先生の額に命中しました。まわりの試験官が緊張して場がシーンと静まり返った瞬間、Trese先生は「もう少し下だったら、きちんとお口に入れることができたのに。」と冗談を言って皆を笑わせました。しかし、まじめなMachemer先生は淡々として次の質問に移りました。試験が終わってTrese先生は箸で豆も摘めず、試験中冗談を言ってしまって怒らせてしまったと思い、半ば諦めて帰宅しました。ところが合格通知がきたのです。Fellowになってある時に、どうして自分が合格できたのかMachemer先生に尋ねると、「硝子体fellowとして選びたいのは、自分の学んだ貴重な経験をまわりにshareすることができる人であり、そのために教育的な立場に立とうという意思のある者です。そしてつまずいた時に、その問題を乗り越えられる性格を有していることが大切です。
 豆を箸で掴めなくても、器用でなくても、関係ありません。君は皆が緊張した雰囲気を一瞬で和らげる気転がありました。」と申されたそうです。こういうフェローが続々Machemer先生の下から育って多くの硝子体手術の素晴らしい指導者になったのです。
 杏林アイセンターに岡田講師が赴任されて、網膜硝子体部門以外にも眼内炎症部にも学内、他大学からフェローを希望するものがでてきました。その1期生が森村、河原先生です。彼らはスタッフの外来を助け、基礎研究も行い、国内、国際学会でも発表されました。カンファレンスでは適切に指導し、質問して研修医を刺激し、何よりぶどう膜炎の専門医として信頼できる医師に成長しました。おそらく彼ら自身も充実した経験を楽しんでいると推察します。緑内障部門も吉野先生の下で山口先生が臨床と研究、教育に積極的に取り組んでいます。こういうフェローが杏林内、他大学を問わず杏林アイセンターに所属することを希望します。
 現代は価値観が多様化し、「人生楽しければ、全てよし」とする風潮もあり、自己啓発のためのセミナーもあります。しかし、臨床医は研修医時代から患者さんを相手に自らを成長させなくてはなりません。難病を目前にした時に、患者とともに病気と戦える医師が必要です。それには失敗や困難もあり、いつも自分が楽しければという態度では臨めないことも多くあります。それを乗り越えるため、あるいは患者さんが了解してくれるためには、失敗や挫折をともに乗り越えようとする「強さ」を身につけることが必要です。そのためには医師としての知識と心がけの裏付けが大切で、その習慣を身に付け、得た知識を仲間とshareするのがフェローです。小生は永本講師と1年違いで研修や病棟チーフ時代を過ごしました。彼は論文を書いても照れて請求しないと別冊をなかなかくれず、これが本当に正しかったかいつも検証しているような照れ屋です。あれだけ美しい白内障手術をしても、手術当日や翌日に患者さんの病室に直接具合をうかがいに出向き、患者さんを誰よりも大切にする姿勢をみせてくれます。彼が小生の研修医、フェロー仲間であることに感謝し、今でも彼から多くのことを学んでいます。杏林アイセンターのフェローも将来集まる時に、一生刺激しあえる素晴らしい医者ばかりであることを期待します。

(平形明人)

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現在、杏林アイセンターには3人のフェローが来ています。河原澄枝先生(関西医科大学眼科出身)、杉本敬先生(東海大学眼科出身)と鵜殿徹男先生(東北大学眼科出身)。それぞれの経験、またアイセンターの感想について伺いました。

河原澄枝先生 (2000年4月から)

Q: 杏林アイセンターに来るきっかけは?
A: 関西医大の松村教授着任後の面談のときに“杏林大学に行ってみない?岡田アナベル先生のところでぶどう膜炎の勉強をしてみない?”と言われ、他の教室をのぞいてみるのも面白そうだなあと思ったので。

Q: 杏林アイセンターが前の施設と異なっていることは?
A: とにかく広くて新しいこと。外来診察室が独立していること。双眼倒像鏡。アイセンター専用の情報処理室。ロービジョンクリニックの存在。眼科の入院ベッド数が少なくて、その分とっても入院患者の回転が速いこと。

Q: 驚いたことは?
A: ドクターが患者宅に入院連絡をすること。外来診察・病棟回診・手術に看護婦さんがつかないこと。

Q: 杏林アイセンターでの研究成果あるいは発表は?
A: “ぶどう膜炎に合併した眼内新生血管” (2000年11月臨眼) ※優秀ポスター賞受賞
  “強膜炎および慢性関節リュウマチ患者の血清サイトカイン濃度”(2001年ARVO・日眼発表予定) 

Q: 杏林アイセンターで何を学んだ?
A: 楽しく仕事すること。興味を持って診療にあたること。

Q: 杏林アイセンターの改善のために望むことは?
A: 各グループ間の連絡?つながり?がもっと強くなれば、それこそ最強のアイセンターになるのでは。

Q: 杏林アイセンターの皆様へひとこと。
A: みんなが忙しく仕事をされている中で、好きなようにのんびり時間を使わせてもらって感謝しています。杏林アイセンターで学んだ事を今後にいかしていきたいと思っています。

 

杉本敬先生 (1999年4月から

Q: 杏林アイセンターに来てから一番楽しかったことは?
A: 地方学会での食事(今まで地方へは行ったことがなかったので)。

Q: 杏林でつらかったことは?
A: 連日の緊急手術。

Q: 杏林アイセンターでの研究成果あるいは発表は?
A: Optical Choherence Tomography(OCT)とRetinal Thickness Analyzer(RTA)による中心窩網膜厚測定の比較。糖尿病網膜症の黄斑浮腫の検討。

Q: アイセンターの皆様へひとこと。
A: こんな私でよければ、もう少し置いて下さい。

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鵜殿徹男先生 (2000年12月から)

Q: 杏林アイセンターに来るきっかけは?
A: 東北大教授の玉井先生の紹介です。網膜硝子体のsurgeryをやりたい、臨床をバリバリやっているような所へ行きたいと言いましたところ、樋田先生と平形先生を紹介していただき、杏林へ来ることになりました。

Q: 杏林アイセンターでは何を勉強したかった?
A: 硝子体手術はもちろん東北大でもやっているのですが、他の大学では、どのような手術手技を用いて、どういう工夫をしているのか、実際に見てみたかった。

Q: 杏林アイセンターが前の施設と異なっていたことは?
A: より患者さんに近い診察。専門が細かく分かれていて、診察するに当たってシステムが出来ている。

Q: 出来れば、もっとやりたいことは?
A: 手術の見学。段々慣れてきたら、助手からでいいのですが、手術中に手を動かせる様なことができれば、と思っています。

Q: 杏林アイセンターの皆さんへひとこと。
A: 皆さん非常にフレンドリーな人が多くて、色々質問しても答えてくれるし、相手をしてくれて、とても感謝しています。

 

杏林アイセンターの近年の国内・海外留学生

井上 真先生 (網膜硝子体) 1994年7月 ~ 1995年6月   (現在、慶応大学眼科)

篠田 啓先生 (網膜硝子体) 1995年7月 ~ 1997年6月   (現在、慶応大学眼科)

Dr. Kevin Shiramizu (ぶどう膜炎) 2000年8月 ~ 2000年9月
(現在、米国UCLA大学内科研修医、7月からUCLA大学眼科研修開始予定)

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from Eye Center Photo-Album

Dr. Glenn Jaffe来日講演
 Duke大学Eye CenterのDr. Glenn Jaffeは1月26日〜28日、大阪で行われた手術学会のために来日されました。Jaffe先生のご専門は硝子体手術およびぶどう膜炎であり、今年から日米臨床試験に入る硝子体内ステロイドインプラントの開発者のひとりでいらっしゃいます。樋田教授、平形助教授の留学時代からの親しい友人でもあります。右側の写真は1月24日、杏林アイセンターでご講演いただいたときの写真です。


(左から三木先生、平形先生、Dr. Jaffe、岡田先生)


(アイセンターでの講演会の様子。 ” Approach to therapy in the uveitis patient“というタイトルでご講演いただきました。)

●アイセンター・オープンカンファレンス
   国内外の先生にインフォーマルな場で臨床、研究テーマについて講演していただくシリーズです。外来棟の10階第2会
   議室で6:30PMから行われます。アイセンター外の先生方も是非ご参加ください。

  2月21日(水) ビッセン宮島 弘子 先生(東京歯科大助教授)「LASIKの実際」
  5月23日(水) 安藤 伸朗 先生(済生会新潟第二病院眼科部長) 「眼科医と倫理」

●第7回糖尿病眼学会総会 (会長:樋田哲夫)
  期日: 平成13年3月16日(金)〜18日(日)
  場所: 日本都市センター会館(東京都千代田区平河町2−4−1)
  特別講演: 池田 義雄(タニタ体重科学研究所)「肥満、糖尿病と眼合併症」
  教育講演: 岸 章治(群馬大学)「糖尿病網膜症の治療の進歩」

 杏林アイセンターはもっともっと色々な大学から訓練医、フェロウが集まって来るようになりたいと思っています。見学生も歓迎です。4月からの人事異動で外来担当に変更があります。申し訳ありませんが今回のレターには間に合いませんでした。ただしスタッフと特殊外来には変更はありません。糖尿病学会への多数の先生方のご参加を御願いします。土曜日の夕方のパーティーには美味しいワインがでます!(TH)

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