お鉢巡り
この河口湖・須走口山頂は平坦で広い。時間もあるし山頂の山小屋で少し休憩してからの下山を考えていた。すると雅が「お鉢巡りしようよ」と言う。予想外の提案に一瞬びっくりした。お鉢巡りは約90分かかる。山頂は空気が薄く、気力・体力が残っていて、天候が良く、風も無く、下山時間まで余裕があるときだけしか許されない。富士山に登った人でもお鉢巡りまで出来る人は少ない。雅にもお鉢巡りの話してあったが、時間的にも体力的にも無理だと思って予定にも入れていなかった。雅の体力は大丈夫そうだし、時間も天気も良い。風も強くない。よし、行ってみよう。時計回りで行くと霧ヶ峰の急登がつらいので、反時計回りに歩き出す。富士山頂は平らではなく火口の周りに幾つかの峰がある。日本最高峰の剣ヶ峰3776mはこの河口湖・須走口山頂の反対側、山頂郵便局も富士宮口山頂にある。お鉢巡りをすれば両方行くことが出来る。

少し歩くと富士山の雄大な火口が見えた。すり鉢状の大火口の直径は600m、深さは200mだ。富士山は火山であることを改めて思い出させ、その規模の大きさに驚く。火口を挟んで正面に写真でよく見る富士山レーダーのドームが見える。「すごーい」「気持ちいー」思わず声が出た。日本で一番高い所を雄大な景色を見ながら歩く、今まで味わったことのないほど素晴らしい気分だった。火口にはまだ残雪が見える。はじめは平坦で少し下った後は軽い登りとなる。さすがに酸素が薄く登りは休みながらでないと歩けないが、山頂までの登りに比べれば随分楽である。2人とも頭痛、吐き気などの高山病の症状も無く元気だ。他にお鉢巡りをしているのは7、8人だけだった。止まると寒くなるのでウインドブレーカーを再び着る。そして最後の剣ヶ峰のまでのやや急な登り。休みながらゆっくり登るが息が苦しい。
レーダードームの真下に来た。遠くで見るよりも以外と小さかった。この気象用レーダーは昨年11月で役割を終えたがドームはそのままに残されている。ここには富士山測候所がある。
測候所の壁には、7月17日9時 風向 北西、風速 3.6m/s、気温 +6.0度、気圧 647.5hPa、天候 快晴
と書いてあった。
この日の富士山測候所の記録。(山と渓谷社のWebより)
測候所の横に剣ヶ峰の石碑と三角地点がある。

10:00、日本最高峰3776mに着く。「やったー」と思わず声が出た。不思議に剣ヶ峰に着いたとたん無風状態になり、暑くなりウインドグレーカーを脱ぐ。雅も重ね着していた冬用のズボンも脱ぐ。天気は快晴、今まで見たどの空より青い。そしてぽかぼか春のように暖かく気持ちいい。寝転がって昼寝をしたい気分。測候所の職員らしき人も日向ぼっこをしていた。

(剣ケ峰より下の富士宮口山頂を望む。郵便局が見える。左は火口)
このあと来た10人ほどのパーティーに雅は、「何歳」「すごいねー」「ぼくは日本一の男だ」などなど声をかけられる。雅は返事はしなかったが、ご満悦のようだ。剣ヶ峰から富士宮口山頂まで行くのには、「馬の背」と言われ両側が切り立った崖で、砂地の急勾配を下る難所である。強風時は極めて危険だが今日は風も無く二人で気分良くかけ降りる。雅がトイレへ行きたいというので、富士宮口山頂へ急ぐ。
富士山のトイレはくみ取り式で、特に山頂のトイレが汚く環境問題にもなっている。しかしここには3日前に出来たばかりのバイオトイレがあり、使ってみた。チップは200円で、臭いもなく、きれいだった。

(富士山頂郵便局とそこで買った登山証明書)
富士宮口山頂には富士山頂郵便局があり、ここで郵便物を出すと富士山頂の消印を捺してくれる。雅は小学校の担任の先生、部長(自分の担任でもあった先生)、そして自分宛のはがきを持って来ていた。それぞれにスタンプ押し、「山頂より」と書き足し投函。登頂証明書(300円切手の張った郵便物)もあったので2枚買い、そのうち1枚を自宅の住所を書き郵便局の職員に渡す。お鉢巡りが出来なければ河口湖・須走山頂の山小屋にお願いすれば有料でポストに投函してくれるが、ここの郵便局のスタンプを押して葉書を出すのも目標の一つだったので、達成できて感激。週末やお盆の頃はこの郵便局もかなり並んでそうだが、今日はすいていて他にお客も殆どいなかった。郵便局を出た時、ランニング姿で走って来る人が見えた。大きな声で、「やったー。目標タイムより早く着いた」と叫んで興奮している。その後からさらに数人が走り込んでくる。もうすぐ富士山マラソンがあり、その練習のようだ。でも歩いて登のもつらいのに富士山をマラソンで登る競技があるのだから驚きだ。しかも一合目から走るそうだ。絶句。ここから20分ほど軽い登りを歩き、河口湖・須走口に11時に戻った。予定では下山時刻で、あまり遅くなると夕立の心配もあるが、お腹も減っているので山頂で昼食をとってから下山することにする。そういえば、朝食が5時でそれからメントスとカロリーメートを少し食べただけであった。河口湖・須走口山頂には山小屋が4軒あるが、「山口屋」に入る。昨夜のメニューと同じだが、カレーとお汁粉を1つづつ注文し、雅と分けて食べる。カレーはやはりレトルトだがとても美味しかった。まさしと「おいしいね」と大きな声を出しながら食べた。かなりお腹も減っていたし、日本一の山頂で食べるているという気分も良かった。雅は食後ここで、友達と自分のおみやげに富士山のテレフォンカードを3つ買った。50度数で1200円、但し、登頂証明書なる紙が入っている。実はこの山頂山小屋でアルバイトで働いていて、インターネットのホームページ上に毎日、山頂の御来光の写真や日記を載せているしている「こみゅ」さんという人がいる。ちょうどその方がいらしたので、「Webを見ていますよ」と声をかけてみる。するととても喜んでくれて、わざわざ今日の御来光のデジカメの写真を見せてくれた。食後、山小屋の前のベンチで下山の準備。靴のひもを締め直し、足には砂が靴に入らないようにスパッツをつける。これで山頂で思い残すことは何もない。自分も雅も元気で体力も十分残っている。やや雲が上がってきているが、夕立もなさそうだ。あとは怪我だけ気を付けて下山をしよう。