ジェット機の爆音とともに
志波 隆
国立身体障害者リハビリテーションセンター,僕らは「国リハ」あるいは「センター」と呼んでいます。埼玉県所沢市に,広大な敷地を持つこの施設は視覚障害者はもちろん肢体不自由,聴覚障害と,いろいろな人たちが訓練に励んでいます。上空にはほぼ毎日航空自衛隊入間基地所属のジェット機が爆音をとどろかせ舞っています。
はり師・灸師・あんま,マッサージ指圧師の受験資格を取るための理療教育課程は,他の障害を持つ方たちの訓練とは異なり,3年,あるいは5年間という長期にわたり勉強をします。中卒の人が学ぶ1部課程は,5年間。ただし3年修了時にあんま,マッサージ指圧師の試験を受け,その時点で国リハを離れる人もいます。2部課程は,高卒以上の学歴の人が学び,同時に3資格、通称「あはき師」を受験します。僕は2部課程を卒業しました。1部は1クラス,2部は3クラス,1クラス確か15人定員。ここ数年は不景気のせいか,2部はほぼ満杯の状態です,1部はとしごとのばらつきがあります。ただ4年生以上になると,大体人数が1桁になっているようです。
勉強は,正直大変でした。東洋医学の表現が曖昧で何ともつかみ所のないところが多く,納得するのに苦労したし,教官の指向性により,振り回されることもありました。(西洋医学よりだったり,東洋医学それも古典が好きだったり)1年生のときにこの点が最も戸惑う点かもしれません。1部性は,はり灸の勉強は4年生になってからなので,その分国語や,数学などの一般教養・・?科目が入ってきます。卒業時に高卒の資格になるようにしているためでしょう・・?(よく分かりません)。
授業は,月曜~金曜の9時から3時過ぎまで,1時限45分,1日6時限,3年時には,臨床実習があり7時間の日もあります。初めての臨床実習のときは,冷汗タラタラ,足は緊張で,ガクガク,何せ本物の患者さんを目の前にしているのですから。それまでは,クラスメイト同士での,はりや灸の打ち合いでしたから。時には患者さんに指示されたりして・・!? それでも卒業近くになると何とか形にはなるものだから不思議なものです。
いろいろな考え方があるでしょうが,僕は下級生のときは学科はそこそそのラインを保って,実技はあらゆる機会を捕らえて沢山の人の体に触ることが重要だと考えました。国家試験に対しての勉強は,3年生の後半のスパートで何とかなってしまいました。あまり威張れた話ではありませんね。でも就職のときに少しでも指が出来ていれば自分のセールスポイントになるのは事実でから。
この文章はHPに載ると聞いています。ということは今この文章を見ている方は,それなりにコンピューターを使うことが出来る方ですね。パソコンが使いこなせるのは勉強をすすめる上でとても効率を上げることが出来ます。センターの教官の中にもパソコンを使っている方が少しづつですが増えてきています,そんな教官と親しくなると思わぬ資料が手に入ったりして・・最近は寮にノートパソコンを持ち込む入所生が増えているみたいなので,そういった先輩からも貴重な資料が受け継がれていたりもする。
この世界に入るタイミングにについてですが,これは3年間クラスメイトや,自分自身のことを振り返って思うのですが,3年あるいは5年,かなりの勉強をするのですから、視力ができるだけ残っているうちに踏ん切りをつけた方がいろいろな点で楽ではないかと思います。資料が手に入りやすいのも,持ち運ぶにしても,スペース的にも,図などの視覚的なものから理解しやすいのも,自分用のノートを取ることが出来るし,ポイントで読み返すことがたやすかったりもする。全盲のクラスメイトがかなりの苦労をして勉強をしているのを目の当たりにして(カセットにポイントを吹き込んで,何度も聞き返したりする)いろいろと考えるところがありました。苦労している分,成績は僕より良い人が多かったですが……
とにかく現在,多くの機械が発売され,とても便利になっています,全盲の方は授業中のノートを手軽に撮れる機械を早く見つけて使いこなせる様になっていることをお勧めします。パソコンしかり,MDしかり,カセットでもぜんぜんオッケー!!
いわゆるキャンパスライフについても少し書いてみましょうか。センターにも普通の学校のようにクラブやいろいろな行事があります,初夏(思っきり,梅雨時だったりする)には体育祭,秋には文化祭,外部の方の講演会(あたりはずれがありますがね)。最初はみな,いろいろなクラブに入っているようですが最後まで続く人は・・?ですが。
基本的にセンターは寮に入るのが前提なのですが,通所の人も結構います,僕も通所でした。どちらが良いとは,一概には言えませんが,僕の場合どうしても1日のうちに一人きりになる時間が必要だったし,近くに人のいる状態で眠るようになるのに時間がかかってしまうため、それでは勉強どころではなくなるので,はじめから通所にしていました。寮生は,通学の時間や,そのためのストレスが無く,寮生同士での情報交換が自由に出来ることです。しかしその分狭い世界に閉じこもるため,一般社会とのずれがどうしても出来てしまうようです。自分にあったほうを十分に考えて自分で決めるべきでしょう。ひとつの方法としては,まず,生活訓練を受けてみてはどうでしょう。春と秋に新しい人が入ってきていました。寮の一角に彼らはいたのですが,一部屋に2人から3人はいっていたようで,その点では理教生よりも条件はよくなかったかもしれません。彼らのいるフロアの反対側には,理教の上級生が生活しているので話を聞いてみるとよく分かるでしょう。
今,いろいろな人たちの努力で視覚障害者の職域が少しづつではありますが,広がっているように思われます,その分あはきの世界ではどんどん晴眼者の人が進出してきて,今では障害者と晴眼者のパーセンテージは完全に逆転していて,よく友達と冗談でそのうち患者さんから僕たち障害者がいることに驚かれてしまうのではないかと・・心配しているほどです。
あまり肩に力を入れずに気楽にセンターでの生活をエンジョイできればそんなに苦労は無いかもしれません。センターでの生活が楽しかったという人も少なくは無いのだから。
さて,僕はセンターを卒業してこの8月でほぼ4ヵ月になりますが,実際に現場に出て思うことも書いてみようと思います。理療教育課程を卒業した後の代表的な就職先としては、鍼灸治療院(接骨院等もある),病院,特別養護老人ホーム,企業でのヘルスキーパー,自身での開業が上げられます。就職に少し手間取ったので実働は一月半ほどなのであまり大きなことはいえないのですが,パソコンの普及のせいか皆さん本当に疲れていますね,肩こり,腰痛,本当に沢山!!老若男女問わず,いろいろな方が治療院にきます。とくに若い女性は仕事場のエアコンのせいで冷えがひどくなったり,足がむくんだり,同じ姿勢を続けているせいで,肩こり,腰痛。高いヒールの靴をはくための腰痛,足に合わない靴をはいているせいでの外反拇趾,もう少し,自分の体のことを考えてほしいといつも患者さんにいうことになってしまいます。それでもまだ治療院にくるだけましなのかも・・?
実際,治療費は安いものではありません,鍼灸の場合保険の適用はいろいろ条件があり簡単には受けることが出来ません。さらに僕の周りで言われている相場は大体一分100円です。大体皆さん30分以上は受けるので,後は計算してみてください。なかなか毎日,あるいは毎週というわけにはいかいないし,施術しているこちら側としても自分の体力との関係から早々ディスカウントは出来ないし,それに加え「癒し」ブームに乗っていろいろな癒しスポットが駅前などに建ち並ぶようになり,それら異業種とも競争していかなければならなく。状況はかなり厳しいものになっているようです。
センターにいるときは,国家試験に受かるための勉強でしたが今はとにかく患者さんによくなってもらうためのいろいろな知識を集めるのに四苦八苦です。それでも患者さんによくなったと声をかけてもらうとなんともいえない感動がありました。確実に自分の中で意識が変化していくようです。 付け加えるならこんなに患者さんとのコミュニケーションが重要だとは・・ もっともっとうまく話せたらもうすこし満足してもらえる治療が出来たかもしれないと毎日反省しています。
生身の人間の体に手を加えることになるのですからとても怖いと思うこともしばしばだし,今は無我夢中というのが正直なところです。髪の毛よりも細い鍼を体に打つだけで,確かに体に変化が現れ,なんとも不思議な現象で,そういった現象が起こることは西洋医学的にもまだまだ解明が進んでいないのも事実です。鍼灸の世界がこんなに不思議だとは知らなかったし,需要も思っていたより多かったことも驚きでした。なんとも言えない魅力的な世界が目の前に出現したような気分です。
抽象的な表現になってしまいましたが具体的な話がしにくいこともあるので,今回はこの位で勘弁してください。
最後に,ひとつだけ付け加えるなら,センターの食事は,…ですよ。(苦笑)
2001年3月
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